曖昧
「ねえ、つぎは、」
陸に躰を拭かずにバスルームから出てきた男は言葉を続けず獄寺の言葉を待つ。
この男はいつもそうだ。
獄寺の前で最後まで喋ることは滅多に無く、出方を待つ。
自分次第といっても、気に入らなければ平然と却下し、言葉巧みに咬みついてくる。
だから雲雀は厄介だ。
獄寺の口から吐き出される紫煙を見つめる雲雀に視線をやった。
ふうと溜息を吐きそうになり、慌てて噛み殺す。
雲雀の前で溜息なんかを吐いたらそれこそ何を言われるかされるか、わからない。
――灰皿は、
不安定な長さの灰に気付き、視線を滑らせると部屋の灯りが点いた。
暗い部屋に慣れていた翠色の双眸が眩む。
瞬間、瞑った瞳を開くと視界には灰皿とまだ水の滴る漆黒の髪と同色の瞳。
わりぃな、とお礼の言葉を述べたときにはもう強引に奪っていた。
乱暴に煙草を押し付け、用無しになったそれをサイドテーブルに置く。
「ねえ、」
手透きになるのを待っていたかのように話し掛ける。
「んあ?」
「ねえ、」
「だぁーもう!わぁったっつーの!ちょっと待てよ。」
がしがしと頭を掻き、床に脱ぎ捨てられている衣類の下から鞄を手繰り寄せる。
その中から黒いラムスキンのカヴァーの手帳を拡げ、睨めっこ。
真っ黒に埋まったスケジュール。
白いスペースが無く、ページを捲ろうと手が動いたとき威圧的に制止された。
「ふーん、来月?」
「…」
「…」
「ちっ…来週金曜日の夜なら空けられる。」
顔を上げると、いつの間にか濃紺のシャツに身を包んでいた雲雀がスーツを、翻し羽織る。
「ふーん、じゃあいつもの場所で。」
獄寺に背中を向けるとカツカツと踵を鳴らし、さっさと部屋から出て行った。
いつも通りのことだけど、ひとりになった途端、部屋の悪趣味さが目に付く。
一刻も早く此処から立ち去りたい。
しかし、鈍痛とだるさを帯びた躰はそう簡単には動かない。
獄寺と雲雀がこんな関係になってからもう数年が経つ。
出会った当時こそは険悪だったが、今日まで歩み寄り、離れまた歩み寄る。
そんな関係を続けてきていた。
ふたりが傷を舐め合うよう、寄り添うまでに時間は掛からなかった。
寄り添っているうちに気が付いたら躰までも繋いでいた。
そうなるまでにどれだけの言葉を交わしただろう。
特段交わした言葉に覚えがない。
次の情事の約束以外を話すことは少なかった。
それでもふたりは寄り添い、躰を繋げ、口唇を重ねる。
――何やってるんだ
いつもひとり残される獄寺はいつも想う。
雲雀は一体何の為に躰を重ねるのだろうか。
それはまた自分も同じことだった。
どうして雲雀と口唇を、躰を、重ねるのだろう。
答えの出ない問答を繰り返しながら、獄寺は夢の中へと意識を手放した。
なっげ!基本的にSSS位の長さで書く予定が。
設定としては5年後くらい!高校卒業してイタリアに行ってマフィアしてるくらい。
甘くしたかったけど、ドライに割り切ってる関係になってしまった…
隼人さんは全裸でシーツに包まってる感じで。
20081205 myogaAyuco.